カードを落としてDNF - BRM306近畿300km


ブルベで、命の次に大切なもの。
3月6日(土)は、紀伊半島をめぐる自転車のイベント「ブルベ」に参加してきました。

記録

出発まで(3月5日まで)
  • 2月20日の中部300kmは、概ね海と丘沿いに走る平坦なコースだった。今回の近畿300kmは紀伊半島の真ん中を走る山岳ルート。おまけに当日土曜の天気は間違いなく雨。
  • 思い立ったように蛍光色の雨具を手に入れて、GPSサイクルコンピュータにはサランラップを巻きつける。ヘッドライトは夜が来るまでザックに忍ばせておけば大丈夫だろうか。
  • いちおうの雨対策を施したものの、気持ちはあまり乗ってこない。走ろうか、やめようか。職場から帰って天気予報にため息をつきつつ、22時過ぎまで悶々と時間を過ごす。
  • ともあれ、ひとまず現地には行っておかねばなるまい。日の変わる前にようやく家を出て、阪和道の岸和田サービスエリアで車中泊、4時間ほど仮眠する。
出発まで(3月6日)
  • 土曜5時に起きて、雨のなか出発地の泉佐野へクルマを走らせる。
  • 人が少なかったらやめよう。なかば弱気になってクルマをコンビニ脇の路上に駐車、雨のなか駆け足で出発地点の様子を見に行く。
  • すると、雨装備に身を固めたひと目で自転車乗りとわかる人の集団が。この雨でも普通に走るのだろうか。
  • ならば、時間はいくら長くかかってもかまわない。制限時間内に完走することを目標に、自分もやってみようじゃないか。
前半(泉佐野〜有田〜龍神〜引牛越〜十津川)
  • 開始直前にルートの一部*1が崩落、通行止になったようで、3月3日に迂回ルートが主催者から発表されていたが、3月6日当日になって通行可能になったとのこと。
  • 「迂回ルート」「正規ルート」は選択可。龍神から十津川に抜ける県道にある峠「引牛越」を早い時間に通過することを考えると、20kmほど距離の長い迂回ルートだと明るいうちに到着できない可能性がある。説明を受けた後、迷わず正規ルートを選ぶことにする。
  • 雨のため、出発は7時45分から順次。スタートからいきなり雨。
  • 雄の山峠を越えて和歌山県へ。路面が濡れているとブレーキの効きが鈍く緊張する。紀の川に下ると雨も一旦落ち着いたようだ。ここから南下、有田川町までつづら折れの国道424を走る。途中ひとつ峠を越える。
  • 有田川町に出て有田川沿いに走って、白馬トンネルを越えて日高川沿いへ。スタートからPC1の美山温泉までは80kmある。60kmほど走ったところにある自動販売機で立ち止まってジュースを飲んでいると、後続にあっという間に抜かれてしまう。ブルベで早く走ろうと思うなら、休憩はなるべく減らさなければならないのだ。
  • PC1の美山温泉でブルベカードに通過時間の記入を受けて、ジャケットの背ポケットにカードとキューシートを入れたジップロックを突っ込む。
  • PC1から25km走った県道との分岐。売店でパンを買って背中に手をやったとき、ポケットにあるはずのジップロックがないことに気づく。どこかで落としてしまったのだろうか。
  • たしか、ブルベカードは常時携帯が必要だと繰り返し説明されたはず。ただ、雨のなかもときた道を最大25km戻るのは、やる気をそがれてしまうようで、気乗りしない。
  • 峠を越えたPC2でそのことを説明すればよいだろうか。ここは割りきって進むことにする。
  • 県道735号は40km余り続くブラインドカーブの連続する山道。緩やかに高度を上げて分岐から20km、標高710mの「引牛越」が峠。そこからは20kmの下り。
  • 路面は舗装されていて落石も少なく予想していた以上に走りやすくはある。緩い登りを続けて峠の前で勾配が急になる。
  • 引牛越の下りは終始ブレーキレバーを握って20km/h以下で慎重に下る。カーブから対向車が来たらどうしよう、ブレーキが突然効かなくなったらどうしよう。せめて、パンクはせずに最後まで抜けさせてほしい。祈るような思いで10km以上延々と続くブラインドカーブ地帯を抜ける。
  • PC2の道の駅十津川郷。待機中のスタッフに「ブルベカードを途中でなくした」旨伝える。
  • 「ブルベカードは(ブルベで)命の次に大切なものですよ」スタッフの言葉。
  • 以前、ブルベカードを途中で落としたことに気づいて延々と引き返したものの、見つからずタイムアウトでDNF(失格)となった人もいるそうである。自分がカードをなくしたとすれば引牛越に差し掛かる前、県道の分岐の前だろうか。ブルベカードが手元になければ、300km完走したとしても、公式に300km走ったという認定を受けることはできないのだ。
  • 今から、どこでなくしたか分からないカードを取りに戻るとすれば何時間かかるだろう。雨の中、もういちどあのブラインドカーブの連続する峠を越える(完走するならば往復)する気には、さすがになれない。
  • ここは、気持ちを切り替えてDNF(失格)は受け入れて、完走することを最大の目標とすべきだろう。
  • 「わかりました。でも、これからのことを考えて最後まで走ることにします。」一呼吸おいた後、スタッフにその旨を告げる。
  • 道の駅でカップ焼きそばを補給。五條に出るまでは、確か峠が控えているはずだ。
後半(十津川〜五條〜泉佐野)
  • 道の駅十津川で16時過ぎ。ヘッドランプを点灯する。
  • ブルベカードを落としたことで、公式な完走はなくなった。これからゴールまで140km、自分のために納得の行く走りをするほかない。そのように気持ちを前向きに切り替えたとはいえ、モチベーションはすっかり冷え切ってしまっている。
  • 「こういうところで事故は起こるのだ」気を引き締めて軽いギアを回しながら焦らず先を進む。
  • 風屋大橋、谷瀬の吊橋。以前沢登りで訪れたり、クルマやバイクに乗って訪ねた場所である。そのときは、自分が自転車でここを通ることになるとは思いもしなかった。残念ながら、今回は立ち寄る余裕はなかったのだけど。
  • 手強かったのは、五條に入る手前に控えていた「天辻峠」。標高差500mを一気に詰める。
  • 最も軽いギア*2でも立ちこぎしなければ進まず、下りは真っ暗。霧雨で視界を遮られ、気温が下がる中での濡れた急坂下り。20km/h以上出すのもはばかられ、ブレーキレバーを握る手の感覚は次第に鈍くなる。200km走ったあとに控えるラスト・ボスのような峠。十津川の前にある引牛越を核心と思っていたが、その後に控えている敵への認識がどうやら甘かった。これは修行なのだろうか。
  • 峠を越えれば五條までは延々と下るのみ。夜を過ぎるとさすがに寒い。
  • 国道24号線に出て北宇智駅の駅前のローソンでレシートを受け取り、あとはBRM123でも走ったコース通りに紀の川の左岸を流す。あとは、要所要所を締めて安全に注意しながら流せばいい。
  • 220kmを越えた橋本市あたりから左膝を回すと鈍痛が走るようになってくる。今日どれくらい登ったのだろう?GPSで累積標高差を確かめると、3,000mを軽く超えている。1日で未体験のゾーン、さすがに体が悲鳴をあげているのだろうか。
  • しかし、和歌山と大阪の県境にある雄の山峠を越えられる体力は残しておかねばならない。脚全体でペダルを回して膝への負担を軽くしてなんとか峠を越え、23時10分頃泉佐野のゴールへ。
  • 到着を労っていただいたスタッフに、ブルベカードを失くした旨伝える。このころになるとようやく気持ちも切り替わっている。今回は雨の降りしきるなか無事故で戻れたことを喜ばねばならない。自分にそう言い聞かせるのみ。

まとめ

  • これまで雨のなかロードバイクで走ることには抵抗があったが、実際に飛び込んでみて、走ることが決して無理ではないことがわかった。
  • ただ、雨のなか走った後のメンテナンスはそれなりに時間をかけた方がいいかもしれない。300km雨のなか走るとブレーキシューが極端に消耗していることに気づいた。そのほかフレームやチェーンの汚れが尋常ではなかった。
  • 今回のブルベは、110名程度がエントリーして、雨で40名がDNS(出走を棄権)、少なからぬ人が途中でDNF(途中棄権)したそうである。逆に見ると、あいにくの天候でも70名が出走したということ。ブルベとはなんと濃い世界なのだろうかと思わずにはいられない。
  • ブルベカードを落としたことで、自分の完走した記録は私的なサイクリングとしての位置づけのみになってしまったが、雨に打たれながら紀伊半島の山道を300km走りきった経験は、次回以降必ず生きるときがくるはずだ。

データ

走行距離
314.0km
走行時間
14時間00分*3
平均速度
22.3km/h
最高速度
46.0km/h
累積標高
3,699m

*1:国道424号線の白馬トンネル付近の路面

*2:34Tx27T

*3:休憩込み:15時間20分