こんな本読んだ - 『ネットワーク社会―パソコン通信が築くコミュニティ』(江下雅之)

1年以上前に書いた記事*1を読んでいただいたのがきっかけで、古本屋の書棚に埋もれていたのを手に取ってみました。
初版は1994年。いまから13年前、Windows3.1の時代。
読み終えた後も充実した感覚がぼんやり残っているのは、2007年においても十分に通用する知見が散りばめられていたからのように思いました。
興味深かったところを少しだけ書き留めておきます。

インターネット以前から懸念されていたこと

企業、政府が発信する組織化された情報を「マスコミュニケーション」、個人の発信する第三者のチェックが働かない情報を「パーソナルコミュニケーション」として、個人のネット上でのちょっとした発言が思わぬ影響を及ぼすことについて懸念します。

サイレント・マジョリティーは、瞬時にしてサイレントでなくなるのだ。(中略)
プラスの方向に作用すれば、政治、経済、文化の面で、さまざまな恩恵が得られるだろう。しかし、マイナスに作用すれば、それは巨大な暴力となるのだ。
パーソナル・コミュニケーションが巨大な振幅を伴うようになることは注目が必要だ。良きにつけ悪しきにつけ、個人の行動の影響力がこれまでになく大きくなる可能性があるのだ。
第三章 ≪仮想社会≫の「人格」と「交流」132頁

パーソナルなコミュニケーションが公共性を担うことができるか、「群衆の叡智」が果たしていつも正しいのか、という話は、今年になって目にすることが増えてきたような気がします。*2

陥りやすい罠

仮想社会の住民が陥りやすい罠を、いくつかのパターンに分類します。これは今読んでもかなり痛烈かも。

1. ノメリ込み症候群

いわゆる「ハマった」状態。

  • 単純反射コメント症
    • 内容は二の次でとにかく会議室に書かれたメッセージに対してレスをつけてしまうこと。
  • 身辺雑事報告症
    • 発言の内容が自分の身辺雑事に終始してしまうこと。
  • 発表衝動依存症
    • 相手の反応に構わず自分の書きたいことを長々と会議室に書く。
2. パソコン通信小児病

ベテランや常連が陥りやすいとのこと。

  • 平然罵倒症
    • 匿名性を笠に着て、相手の感情などお構いなしに罵倒すること。
  • 仲良しこよし症
    • 罵倒の裏返し。ちょっとした波風さえ気にしてしまうこと。
  • ケチつけ症
    • ネガな意味での一言居士。持論に執着し他者の反論を許さないこと。

利益ある情報には対価を

情報を単に発信するだけでは活動の動機付けを維持できないとして、価値のある情報を正しく評価するしくみが必要になると指摘します。

ここでは、やはり利益のフィードバックの仕組みが必要なのではないか。それによって、会議室で成果を生む活動が促されるのではないか。(中略)
価値ある情報には対価をはらうという発想をもっと一般化し、シェア・インフォメーションのしくみが必要なのではないか。
第四章 ネットワーク社会となるために 186頁

はてな投げ銭はてなスターは、「価値ある情報を"気軽に"評価する」という発想から生まれたものなのかな、とふと思い返しました。