IWAさんのこと、「POWDER」のこと。

2005年

山スキーを始めてまだ間もない2005年頃、毎週のように白馬に山スキーに通っている人のブログが面白い、という話を聞いた。
ブログの名前は「POWDER」。
IWA」という人が書いていて、どうやら関西在住っぽい。関西から白馬はただでさえ遠いのに、ほぼ毎週だなんて凄いな。
興味と親近感を覚えて、その日からブラウザのお気に入りに入れて毎週読むようになった。

2006年

山スキーのルートを考えるときによく見に行くサイトのひとつに、「POWDER」を挙げる記事を書いた。*1
いま思うと、この記事が参照元となって自分のブログの存在がIWAさんに伝わっていたのかもしれない。

2007年

ブログに山の記録をアップした後、すぐに特定のアドレスからアクセスがあることに気づいた。*2
アクセス元を覗いてみると、山スキーや白馬、自転車のブログが集めてあって、「POWDER」は別枠のフォルダで整理されている。
もしかして、「POWDER」を書いている人が自分の記録を読んでくれているのだろうか。
ネットの向こうには誰がいるのだろう。ぼんやり考えているとき、地元京都の山のことで「POWDER」のIWAさんからメールで問い合わせを受けた。
憧れていた人が自分のことを知ってくれていたのが、嬉しかった。

2008年

雪乞いの集い

年が明けて間もなく、メールアドレスを頼りに、思い切ってチャット越しにIWAさんに話しかけてみた。
「是非一度お会いできればと思っています。」
IWAさんの主催される「雪乞いの集い」に行きたいと勇気を出すように申し出ると、快く受け入れてくれた。
3月、白馬乗鞍岳を滑った後、集いに参加。初めてお会いするIWAさんは、思っていたよりずっと年上で、落ち着いた人のように思えた。*3
手配されたバスで、八方第五駐車場からHakuba47スキー場のレストランへ。初めての場で緊張しがちな僕を、IWAさんが間をとり持つように仲間に紹介してくれた。
翌日は、集いで教えていただいたお気に入りのルート「ウラヒヨ」をトレース。偶然ゴール近くでIWAさん一行とご一緒して、下山地点のコルチナから入山地点の栂池までIWAさんの車に乗せていただいた。*4

GW

GWに滑る山スキーのルートを考えていたとき、事前にIWAさんに相談した。
「まあ、行けるでしょ」。その言葉に勇気づけられるように気合を入れて臨んだ、唐松沢から大出原、猿倉へのルート。
無事に行程を終えて車のある八方第五駐車場に着いたところ、IWAさんや仲間の方がバーベキューを楽しんでいるところだった。
「おめでとうございます。」まるで自分のことのように成功を喜んでいただき、僕も輪の中に混ぜていただいた。
しかしそれで話は終わらない。
寝床につくべく精算しようとしたとき、自分が財布と携帯電話をもろとも山にお供えしてきたことに気づいた。おそらく、疲労困憊でザックのチャックを閉じるのを忘れていたのだろう。
どうしよう。このままでは一文無しだ。
天国から地獄に突き落とされたように取り乱しそうな自分を見かねてだろう、IWAさんがそっと1万円を貸してくれたおかげで、無事に自宅に帰ることができた。
翌日以降の計画は流れてしまったけれど、遠征先で思わぬ親切に浴したことで、この年のGWは忘れられないGWになった。*5

「自転車で一緒に走りませんか?」
IWAさんにGWのお礼がしたくて、チャットで話しかけた。
日程がまとまるも直前になって週末の天気予報が悪くなり、まずは様子を見ようということになった。
そうして訪ねたIWAさんの自宅。これまでで心に残る山スキーや自転車のルートの話をGPSログや写真を交えて教えていただいた。
そこで、気になっていたことを尋ねた。「毎週行くところが、どうして白馬なのですか?」
「いいルートがたくさんあるだけじゃなくて、仲間がいるからね。」
その夜はIWAさんの自宅に一泊。驚いたのは、高価な自転車やスキー装備が、専用の部屋にまるで博物館のように保管されていたこと。正直言って、羨ましかった。
それまでMTBしか知らなかった自分がロードバイクを知ったのは、このときIWAさんのビアンキ号に跨らせてもらったのがきっかけだ。*6

2009年

ロードバイクを手に入れた年の秋、京都から和歌山を往復した帰りに、IWAさんの自宅に立ち寄った。
「ロードバイクが走りやすい乗り物だと知ったのも、長い距離を走る楽しみ方があることを知った*7のも、IWAさんのブログがきっかけです」
内心は突然の訪問にきっと苦笑いされていたに違いない。それでも、僕が一人熱っぽく語る話をIWAさんは頷くように聞いてくれた。*8

2010年以後

IWAさんにお会いしたのは、2009年が最後。
2010年以降は僕が肩の脱臼の手術を受けたり、子供が生まれたり*9で、山に出かける機会が減ってしまったからだ。
この2年はFacebookTwitterでの緩いつながりではあったけど、IWAさんから「いいね!」をもらうたびに「あ、読んでくれているのだな」と感じることができたし、シーズンになれば「POWDER」で居酒屋「きっちょんちょん」での乾杯の写真を見て和むことができた。
もう少し子育てが落ち着けば、時間を作ってまずは自転車でご一緒してみたいな。ぼんやり、そう思っていた。

2012年

そして1月28日に、事故は起きた。*10
人一倍白馬を愛していた人に対して、なぜ自然は冷酷に牙をむいたのだろうか。
深い経験と周到な準備をもってしても、それでも事故は防げないのだろうか。
堂々巡りを続けながら、1月31日に最後のお別れをしてきました。


僕がIWAさんと関わることのできた期間はほんのわずかではあったけど、白馬、ロードバイク、ロングライド。新しい世界を見るきっかけをIWAさんにいただいたことは、間違いない。
IWAさんのご冥福を心よりお祈りいたします。

2/2追記

IWAさんのことに触れた記事をまとめました。

*1:山スキーの情報を集めるために巡回したい10のサイト - 忘却防止。」。2006年11月。

*2:今はなき「はてなRSS」でブログを購読されていたので、アクセス元のアドレスを突き止めることができた。

*3:僕の記録は「白馬 栂池スキー場 - 天狗原 - 白馬乗鞍岳(山スキー) - 忘却防止。」、IWAさんの記録は「http://powder.cocolog-nifty.com/powder/2008/03/2008_6499.html」。

*4:僕の記録は「白馬 栂池スキー場 - 鵯峰 - 親沢 - 白馬乗鞍スキー場(山スキー) - 忘却防止。」、IWAさんの記録は「http://powder.cocolog-nifty.com/powder/2008/03/0309_382d.html」。

*5:僕の記録は「白馬 唐松沢 - 天狗沢 - 大出原 - 猿倉 - 八方(山スキー+自転車) - 忘却防止。」、IWAさんの記録は「http://powder.cocolog-nifty.com/powder/2008/05/0504_815e.html」。

*6:僕の記録は「葛城山と吉野川沿いと(ハイキング+自転車) - 忘却防止。」、IWAさんの記録は「http://powder.cocolog-nifty.com/powder/2008/11/1108-7a13.html」。

*7:http://powder.cocolog-nifty.com/powder/2006/08/0816_km_5806.html」の記事がきっかけでした。

*8:僕の記録は「ロングライドに出かけよう - 京都から和歌山へ - 忘却防止。」。

*9:詳しくは「2010年の私的なできごと3つ - 忘却防止。」。

*10:新聞記事は「http://www.shinmai.co.jp/news/20120129/KT120128FTI090010000.html」(魚拓)。日本雪崩ネットワークの現地報告は「120128白馬・犬川上流雪崩事故・調査報告(2/7修正) - 日本雪崩ネットワーク」。