こんな本読んだ - 『論文捏造』
- 作者: 村松秀
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/09
- メディア: 新書
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2002年に「ベル研究所」で起きた捏造事件を追ったNHK特集番組『史上空前の論文捏造』を書籍化したもの。
不正とはもっとも縁遠いはずの科学の世界で捏造の起きた背景を関係者のインタビューや取材を交えて分析、
- 科学者は決して嘘をつかないという性善説で業界が成り立っていること
- サイエンスの先端は専門の細分化が著しく真新しい研究ほど再現が困難であること
- 「怪しい」研究を告発しようとしても、告発する側に怪しいことを立証する責任が生じること
- 科学の権威と呼ばれる『ネイチャー』『サイエンス』のような雑誌であっても、科学的な裏付けよりも時として話題性を優先してしまうこと
など、科学の世界の「欠陥」を丁寧に指摘。
そのなかでも僕自身が興味深いと感じたのは、真理を追究すべく日々鍛錬を積んでいるトップレベルの学者であっても「権威」に騙されてしまうことがあるということでした。
ひとたび相手の言うことを信じ込んでしまうと、たとえ矛盾や疑念にぶち当たったとしても、相手が正しいと感じられるように自分の脳内で理屈を作り、「相手のことを正しいと判断した自分」を正当化する。これを心理学の用語で「確証バイアス」と呼ぶそうです。(98頁)*1
新書で300頁以上のボリューム。扱うテーマは「超伝導」というサイエンスの先端分野ですが、一般向けにわかりやすくかみ砕いて書いてあるので一気に読み進めることができます。
たとえば僕のように科学に縁の遠い人にこそ薦めたい本だと思いました。
*1:先日読んだ『山岳遭難の構図―すべての事故には理由がある』で、一旦道に迷うと、客観的に誤った判断であることが明らかだとしても「正しいと判断した自分」を守ろうとして遭難に至るケースが多いという記述があったのですが、これも「確証バイアス」の例でしょうか。