こんな本読んだ - 『爆発するソーシャルメディア』

時事通信のIT記者・湯川鶴章*1氏の近著。
帯には「3.0が見えてきた!」の文字が。
googleの次にイノベーションを起こすサービスは何かを探りたい向きに。

三次元の仮想空間「セカンドライフ

著者が参加型コミュニティの先端事例として熱く解説しているのが三次元の仮想コミュニティ「セカンドライフ」。
仮想空間の中で再現されるシーンは実に多彩、セカンドライフ内で開かれる企業の記者会見に対応するためリアルの大手報道機関*2セカンドライフ内に支局を開いたり、アバター*3に役を与えてセカンドライフの仮想世界の中で映画を撮る「マシネマ」*4なんて文化が流行ったりしているそうです。
三次元のウェブ空間の出現を予感させる下記の下りは、セカンドライフへの興味をそそるに十分なものでした。

文字だけの冷たさとは異なり、土地の景観や、家具、服など、全ての画像に加え、波の音、鳥の声などの音も相まって、人間同士のコミュニケーションという実感がセカンドライフのような仮想空間のチャットには存在するのだろう。
139頁 第三章 セカンドライフという衝撃

日本人に表現の欲求はあるか

一方で、セカンドライフはあまりにも自由度が高い=何もかもユーザが作り出さなければならない点において日本人に馴染むのには時間がかかるのではないか、と筆者は考えます。
このへん、「日本ではGoogleがなぜYahooに勝てないのか」という問題設定と被るようで興味深いところでした。*5

ミクシィにしろ、モバゲータウンにしろ、「ファイナル・ファンタジー」にしろ、運営者側がある程度の枠組みを提供した方が日本人ユーザは喜ぶ、と考えているようだ。
177頁 第四章 爆発するクリエイティビティ

自らの留学体験などを重ね合わせつつ、Wikipediaや「ヤフー知恵袋」、「教えて!goo」といったソーシャルメディアが軌道に乗ったことを引きながら、いわゆる「自己実現の欲求」は日本人・米国人問わず持っていて、日本人は表現することにまだ慣れていないだけだと最後に結論づけています。

SNSにあって、googleにないもの

最後に興味深かったのが、利便性とプライバシーを天秤にかける話。
EPIC2014*6が憂うような管理社会の実現を、人々はそれほど気にしていないとしています。

プライバシーの侵害が気にならないわけではないが、便利さを犠牲にしてまであらゆるプライバシーを保護しようとはしない。自分自身の便利さを犠牲にするよりも、何らかの法的措置で社会が個人のプライバシーを守ってもらいたいと、自分勝手に思っている。
198頁 第五章 グーグル vs ソーシャルメディア

そのうえで、現在googleの収入源になっている検索連動型広告は、ユーザの行動からユーザの属性を把握して、行く先々で属性に合った広告を表示する「行動ターゲティング広告」に近い将来抜かれるのではないかと予測。
個人の属性を特定するための情報を独占しているSNSが、これからgoogleに代わって存在感を増していくのではないか、と締めくくります。

*1:http://b.hatena.ne.jp/entry/http%3A//it.blog-jiji.com/0001/湯川つるあきのIT潮流」、古くは「ネットは新聞を殺すのかblog」の人。

*2:英国の報道機関大手・ロイター通信。120頁。

*3:仮想世界の中の自分の分身。

*4:machineとcinemaの造語。

*5:この意識を表現した代表的な記事は「Yahoo!がGoogleより人気の日本、なぜと頭をひねる − @IT」。「忘却防止。 - 「Googleはとっつきにくいから親切なYahooを使う」のは、案外大多数の意見なのかもしれない」で思うところを少しだけ書きました。

*6:GoogleAmazonが今後さらに巨大化していく様子を過去、未来を見据えて展開するスライドショー。動画は「EPIC 2014」を参照。日本語版字幕あり。動画の解説は湯川氏のエントリ「「EPIC 2014」 (ネットは新聞を殺すのかblog)」を参照。2005年に話題になった記事。懐かしい…。