こんな本読んだ - 『散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道』

散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道

散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道

太平洋戦争時の硫黄島総指揮官・栗林忠道中将の実像を、家族に宛てた手紙を紹介しながら追おうとしたドキュメント。
映画「硫黄島からの手紙」を観て、興味が湧いたので手に取ってみました。
2006年大宅壮一ノンフィクション賞受賞。

「勝つ」のではない、「敗けない」ということ

2003年のイラク戦争終結の大統領演説でその固有名詞が引き合いに出されるほど、アメリカにとっても「硫黄島」は戦場における勇気と勝利の象徴であり続けているそうです。
敗色が濃厚な戦いを前に、なるべく長い間「敗けない」ために指揮官が選んだこととは。

あまりにも苛酷な戦場では、怪我や飢え、渇きの中で生き延びて闘うよりも、ひと思いに突撃して果てたいという思いに駆られる。しかし硫黄島は、勝利することよりも生き延びることもあり得ないとわかっている戦場である。(略)しかし栗林は、この島では一兵たりとも無駄に死なせてはならぬと固く思い定めていた。
それはヒューマニズムではなく、冷徹な計算であった。
死ぬと決まっている自分の命。死なせるとわかっている兵士たちの命。それをいかに有効に使い切るかという計算を、栗林はやってのけたのである。
68頁

日本が敗れることを最初から承知したうえで、選んだ持久戦。
こちらの兵力は2万、敵は6万。
水際で敵を食い止めるというこれまでの定石を覆し、すべての陣地を地下に構築してゲリラ戦を展開。
敵の楽観をみごとに打ち砕き、敵の将校をして「ウジ虫のようにしたたか」と唸らせる戦いを続けます。
ところが、硫黄島で戦いを続けている間に、東京は大空襲に。
それだけでなく、硫黄島で戦闘を長引かせたことが「これ以上アメリカの若者を死なせないために」米国に原爆の使用を踏み切らせていきます。
歴史は残酷であるとしか、いいようがありません。

ドキュメントから学べる普遍的なこと

米国も硫黄島ではかつてない苦闘を強いられたこと。
家族に届けられることのなかった名もなき兵士の手紙や遺書が硫黄島にはまだ多く埋もれていること。
映画では伝えきれなかったことが、この本には多く散りばめられています。*1
僕自身、戦争を扱ったノンフィクションからここ数年遠ざかっていました。
当時のリアルな生に思いを巡らせることで、普遍的なことを多く学ぶことができるのではないかと確信させてくれる一冊だったように思います。

関連する情報

*1:映画を観た当初は、日本軍の歴史に残る死闘が米国の監督によってなぜ映画化されたのだろうと素朴に思いましたが、この本を読めばその理由がわかります