こんな本読んだ〜『障害者の経済学』
- 作者: 中島隆信
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2006/02/10
- メディア: 単行本
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第49回 2006年度 日経・経済図書文化賞受賞。*2
これまでは「転ばぬ先の杖」
私たちが一般的に社会的弱者とよばれる人々と向き合った時に戸惑うのは、そこでの反応の仕方によって自分の心が試されていると感じるからである。
20頁
障害者と健常者の間に見えない「壁」を作っているのは健常者自身である。
「障害者はかわいそう」「障害者は頑張っている」と無意識のうちに刷り込まれているのは、障害者を「身分」として格付けしているからである。
その背景には、「のちのち起こりうる面倒を事前に回避しようとする心理」が働いているのではないかと推論します。
その心理を筆者はことわざにたとえます。
- 「転ばぬ先の杖」 - 「先の杖」型ルール
- 予想される事態をあらかじめ想定しておくことで、後から起こるトラブルの芽を摘んでおく考え方。
- 人々が均質な好みを持ち、どのような行動をとるかあらかじめ予想しやすいときには事前の準備が効果的。
- たとえば障害者が措置制度に守られていたとき、行政はメニューを提示するだけでいい時代もあった。
- 逆に、価値観が多様化すると事前に完璧な準備をすることは困難になる。
- たとえば障害者自立支援法の施行によって障害者をサービスを選択する自立した主体とみなしていくならば、「消費者」のニーズや価値観に既存の制度がどこまで対応していけるだろうか。制度から漏れたケースを適正に扱うことは容易ではない。
これからは「案ずるより産むが易し」へ
事前にリスクを見積もる「先の杖」型ルールからの転換を筆者は同様にことわざにたとえて説きます。
競争型社会の移行を前に
経済が生産と消費から成り立つとするならば、対価を払わない無料のサービスは消費者としての主体性を削ぐどころか逆に「どうせ無料だから貰えるだけ貰っておこう」とするモラルハザードを引き起こしかねない。
障害者自立支援法の施行に伴ってサービスが原則10%負担になったことには慎重に同意しつつも、障害者をはじめとする社会的弱者を経済システムにどのように位置づけるのか、模索しようとします。
障害者に関していえば、戦後の福祉政策のなかで、競争社会ではまともに生きていけない社会的弱者として施設などに収容され、健常者の手によって養われてきた。しかし、近年の動きを見ると、行政サイドは「障害者自立支援法」に見られるように、障害者を施設に入れて保護する役割から、障害者の自立をサポートする役割へと転換しようとしている。そして、民間レベルでも、「障害者を納税者に」というスローガンのもと、経済システムの中に障害者を取り込もうという動きが拡がっている。(略)
競争メカニズムの導入は時代の流れであって、もはや避けて通れない状況にある。そうしたなかで、障害者をはじめとする経済システムにのりにくい人々をどう位置づけるか、そこに社会の英知が試されている。
201-203頁
あとがきには、筆者は障害者の父親であることが記されていました。
当事者であるからこそ「当事者感覚を排除し、経済学の視点から冷静な目で障害者について考えた」ところに、子息への惜しまぬ愛情が注がれているように思いました。
関連する記事
『障害者の経済学』について目に留まった書評などを挙げておきます。
- 研究メモ 『障害者の経済学』が日経・経済図書文化賞に選ばれた件について
- 経済学・社会保障の切り口から。
- 「障害者の経済学」中島隆信著(東洋経済新報社)-晴耕雨読
- 「平易な語り口で福祉への端緒に読める」とレビュー。
- 慶應塾生新聞 Keio Student Press on line - 学生時代の必読書を教授が指南 商学部教授 中島隆信君
- 著者の自薦文。
*1:「忘却防止。 - 配慮を強制されるときに感じる違和感とは〜障害者とのコミュニケーションをめぐって」を書いたとき
*2:受賞作の一覧は「日本経済研究センター」に掲載されています。