こんな本読んだ〜『ネットvs.リアルの衝突 - 誰がウェブ2.0を制するか』

先見性に富んだ、いわゆるビジョナリーと呼ばれるブロガーの文章を読んでいると、時折聞いたこともない考え方や言葉に戸惑うことがあるのですが、ネット上のトピックや歴史を知ろうと立ち戻りたくなる時、佐々木俊尚氏の記事やサイト*1を見に行けば疑問が氷解することが何度もありました。
Winny裁判を軸に、ネットを国家や企業が囲い込もうとする「覇権化」を憂う視点を盛り込んだ本書も、前作『グーグル―Google 既存のビジネスを破壊する 文春新書 (501)』同様是非読んでおきたい本となるでしょう。*2

日本の標準化、三度の敗戦

日本のIT産業が標準化を果たせなかった過去の事例について。
最近報じられた国産検索エンジン開発の動き、Winny裁判の判決の深意を理解しようとするならば、ここはきちんと押さえておきたいところです。

  1. 第一の敗戦:半導体(1990年代)
    • 垂直統合で重厚長大型の製造をしていた日本の半導体メーカーは、米国・台湾・韓国の仕掛けた低価格競争に勝てなかった。
  2. 第二の敗戦:OS(1990年代)
    • 日本のパソコンメーカーは「TRON」によって標準化を仕掛けたが、アメリカの不快感を買い「スーパー301条」によって切り崩され、WindowsIntelの入ったマシンを組み込む単なるセットメーカーの地位に甘んじた。
  3. 第三の敗戦:情報家電(2000年代)
    • デジタル家電の普及に従って安い半導体を組み込んだ中国製の製品が市場を席巻、攻めあぐねていたところ「iPod」という思わぬ伏兵が日本の得意としていた情報家電の世界を呑み込んでしまった。

ネットとリアルの衝突

法政大学・廣瀬克哉氏の分類する、情報革命が社会に与える影響のシナリオ。

  1. 民主化
    • 新たな技術やネットワークによって、コミュニティや統治の仕組みが再編され、新たな基盤を持った社会が生まれる。
      • web2.0の思想が本来目指す「個人・企業・国家が多様性を生かしながらフラットにつながっていく」とする考え方は、この思想の延長にあるでしょうか。
  2. アナーキー
    • リアル社会が解体された結果、社会の基盤は失われ、秩序が崩壊していく。
      • Winny開発者の抱いた、インターネットやコンピュータが社会を変えうるのではないかいう「変革思想」は、ネットとリアルの衝突を引き起こしました。
  3. 覇権化
    • 政府や大企業が巨大なパワーによって新技術を内部へと囲い込み、自らの覇権を復活させる。
      • 本来自由であったはずのインターネットが国家間の紛争の具と化してしまう。Googleの検索結果に中国政府が検閲を要求した事例などが記憶に新しいでしょうか。

Winny裁判の記事に詳らかに目を通している向きには多少物足りなさが残るかもしれませんが、Winnyが生まれるべくして生まれた、衝突すべくして衝突したという理解を深めるためには、本書は格好のまとめになると思います。