こんな本読んだ〜『公務員、辞めたらどうする?』

公務員、辞めたらどうする? (PHP新書)

公務員、辞めたらどうする? (PHP新書)

国家I種キャリア官僚の地位を擲って人材コンサルタント業に転進を遂げた筆者が、公務員から転職活動を成功させるコツを書いた本。
「公務員を辞める」という刺激的なタイトルに惹かれてつい買ってしまいました。
公務員をしつつ、もっとやり甲斐のある仕事に身を焦がしたときどうやって夢を実現させるか。準備・面接・起業まで本人の経験を踏まえてひととおり指南されています。

役人の転職はもはや特殊ではないのか

一般的に、民間→公務員への転進はありえても、その逆はよほどの能力がない限り難しいという見方が普通だと思います。
「なぜ公務員は使えないとみなされるのか」筆者の仮説は正鵠を得たものといえるでしょう。(139頁)

  1. 身分保障が手厚いあまり、公務員は自己の能力開発を怠ってきた。
  2. 民間企業は公務員を「お役所感覚の人」と見下してきた。
  3. だから、民間で公務員のスキルが評価されることはきわめて稀。

転進が困難だからこそ、公務員で円満に転職できるのは野心を抱いた一部のキャリア官僚くらいだろうと思いこんでいたのですが、筆者の主宰する公務員向け転職支援ウェブサイト「役人廃業.com」の一コーナー「公務員からの転職支援 役人廃業.com | 転職経験者スペシャルインタビュー」で地方公務員からの転職事例があるのを見ていると、必ずしも特殊な事例とは言い切れなくなっているようです。

役人廃業の時代

先行きがきわめて不透明な世の中にあって、安定の象徴といえば公務員。
終身雇用が半分保証されたような身分にあって「公務員を辞める」などと口にすれば変人扱いされかねない空気はいまも支配的です。
ですが、先月、北海道の夕張市が事実上財政破綻財政再建を最優先に職員の給与も大幅にカットされ、場合によっては生活保護の世帯よりも手取りが下回るケースもあることがわかりました。
このような報道を目にしていると、この本に記されている文脈とは逆の意味で「公務員の転職」があながち冗談でもなくなってきたとも思います。*1

これまで公共部門が実施してきたサービスを市場化テスト(官民競争入札)にかけ、より安く、よいサービスを提供できるものが落札する時代になる。(中略)
「官から民へ」で行政全体がスリム化している流れで、今後も公共部門の整理・縮小が続けば、配置転換だけで既存人員を全て吸収するのはいずれ限界をきたすだろう。
51頁

「行政への住民参加」、「民間活力の活用」というフレーズが人口に膾炙して久しいですが、行財政改革の切り札として注目を集めている指定管理者制度*2PFI*3が浸透していけば、公共部門の役割が政策立案・内部管理といったコアに収斂していくことは間違いありません。
果たして公務員はいつまでも安定した職業なのか? 役所の常識は世間の非常識ではないのか? 問いかけるには、この本はよいきっかけを与えてくれます。

若くて転職を考える向きに

公務員の多くは、自分の職務経歴やスキルに関しては良くも悪くも謙虚なのだ。つい正直に、「自分の経験は役に立たないと思います。」と言ってしまう人もいる。しかし、度が過ぎる謙虚は、転職活動では災いになることも少なくない。「○○の経験を御社の業務の中の××で役立ててみます」と大見得を切るだけならタダである。それが「勘違い公務員」ととられるのか、「その意気やよしととられるかは、紙一重である。
151頁

このようなアドバイスが本書の大半の流れをなすのですが、筆者自身「国家I種」という公務員の中でも「勝ち組」出身であるためか、どうも「持つ者」のイケイケドンドンの精神論の視点で話が進められがちな印象を受けました。
それでも、安定を捨てて成功した本人の経験談を綴った貴重な記録ではあるのでしょう。
出自が公務員であるかどうかにかかわらず、これから前向きに転職を考える20代前半〜後半の世代に響く本なのではないか、と思いました。

*1:夕張市の職員の給与や待遇については「blog::青年の発達と未来を考える - ▼夕張市職員・公務員の給与──資料と感想」にまとめられています。

*2:図書館や市民会館・公民館といったハコモノの運営を民間事業者に任せて行政サービスのコスト削減と質的向上を図ろうとする制度。民間に委託してサービスがよくなるの?という議論については、図書館を題材に「煩悩是道場 - 図書館運営に於ける「公益」とは何であるのか 」「kmizusawaの日記 - 図書館の民営化&図書館はなんのためにあるのか」で触れられていました。

*3:簡単に言ってしまえば、民間の資金と活力を積極的に使って公共のインフラを充実させていく仕組み。