気になるあのコに萌えた朝〜これはツンデレなのか

いつもはそっぽを向かれている相手に不意に胸の内を見せられるとき、これまで心の奥底に閉じ込めていた感情が堰を切ったようにあふれ出そうになるのを感じたことはないだろうか。
それは、「萌える」という感情に出会ったということなのかもしれない。

偶然を積み重ねるなかで

毎朝身支度を整えて職場に急ぎ足で向かう途中、いつもの場所にそのコは物憂げな姿で佇んでいる。
まるで同じ駅のホームで同じ場所にいつも居合わせるような偶然を積み重ねていくなかで、退屈な日常に目をそらせるつもりで向こうに意識を重ねようといつからか試みるようになった。
何か考え事でもしているのだろうか。それとも、待ちわびた相手でもいるのだろうか。
ふとした気まぐれで、声をかけるつもりでそばに寄ってみたことがあった。ところが、視線を合わせる前にいつもそのコは立ち去って僕の目の前から姿を消してしまっていた。
もしかして、あのコも僕のことが気になっているのだろうか。
逆に、無意識のうちになりふりかわまない視線を浴びせている僕を避けているんだろうか。
いや。それ以前に、僕のことなんて眼中にないに決まっている。
なんか、もどかしいなあ。
少しずつ募っていく気持ちをよそに、いつもぷいっと立ち去っていくそのコの後姿が、僕のなかで気になる存在に育っていくまで、そう時間はかからなかった。

いつもの朝のできごと

いつもの朝、そのコはいつもの場所で何かを待っているようだった。
今日こそは、少なくとも目を合わせてもらおう。
でも、こちらが力むときほど相手に見透かされるんだよなあ。
決意なのかあきらめなのかどちらともつかない感情とともに、平静を装ってそばを通り過ぎようとしたときのことだ。
そのコが不意にこちらに近づいてきた。

今までそっぽを向いていたことなどまるでなかったかのように、甘えるような声を出しながら僕のすぐそばで胸を露わにさらけ出すではないか。

想像することすら叶わなかった光景が目の前に広がっている。今まで鬱積させてきた感情が一切吹き飛んでいくのを感じた。
間違いない。このコも僕のことが気になっていたんだ。
暖めてきた思いを実行に移すチャンスは、今しかない。
逃げないで。
自分の本能にわざと背く素振りをしながら、ためらいがちにおそるおそるそのコの胸に手を伸ばしてみる。
緊張に震える指先をやさしく包み込むかのように、そのコは僕を受け入れてくれた。
ニャンコの身体は、どこまでも柔らかくて、あたたかかった。

あの朝のあとで

その朝からしばらく経つ。
今朝も、あのコは家のそばの花壇にちょこんと座っている。
仕事の時間に遅れまいと慌しく街路を横切る僕の姿を認めると、何かを思い出したようにしっぽを逆立ててその場を立ち去る姿は、前と変わることはない。
もしかしたら、あの朝のできごとは猫の起こした気まぐれだったのかもしれない。

ただ、あの朝を経て、僕の中であのコの存在がいっそう大きくなっているのを、苦笑いしつつも認めずにはいられないのだ。