こんな本読んだ〜『文系のための「Web2.0」入門』

文系のための「Web2.0」入門 (青春新書INTELLIGENCE)

文系のための「Web2.0」入門 (青春新書INTELLIGENCE)

小川浩氏の前著『Web2.0 BOOK』を先日読んで、豊富な事例とわかりやすい解説に好感を持った。
同じ筆者だったので手に取ってみたところ、本を離すことができずつい購入してしまった。
一読する限り、ITmediaやCNETの記事で出てくるWeb2.0にまつわる重要なキーワードを流れに乗せてまとめた感じ。
3月の『ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)』以後に出てきた動き(Youtubeの急成長やGoogle Spreadsheetsの登場、国産検索エンジンの構想)も抑えており、ウェブを巡る最新のキーワードをさらりと理解しておきたいときに役立つと思う。
帯の文句どおり、3時間あれば十分に読める本でした。
以下、気になったフレーズを抜き書きしておきたい。

情報をお金のように預ける

企業で個人情報の含まれるデータは自社内で保管・運用するところがいまのところ大半ではあると思うけど、情報を守る人的・物理的・技術的なコストも同時にじりじり上昇しているように思う。セキュリティとコストのせめぎあいがある閾値を超えると、「情報も信頼置ける機関にアウトソースする」流れが一気に生まれそうな気もする。

「企業情報を他のインターネット企業に預けることにセキュリティ上問題があると懸念する声もあるが、そもそも銀行という民間企業にお金を預けていない企業はない。お金は預けられて情報は預けられないというのはナンセンスだ」
149頁「Web2.0的ビジネス最前線」 (株)セールスフォース・ドットコムの宇陀栄次社長の言葉より

1.0と2.0の対比

Web1.0Web2.0の雄が正面で対決する構図を非常にわかりやすく表現。

マイクロソフトは現在、Web2.0の覇者であるグーグルへの対抗手段として、OSやデスクトップソフトウェアのユーザからトラフィックをウェブに集めていく、という戦略を進めている。
グーグルのアプローチはこれとは逆で、インターネットに確保した巨大なトラフィックから、クライアントやイントラネットの中に侵食し始めている。
174頁「車も家電も、ヒトの行動も2.0化し始めた」(一部抜粋)

本書では、ビルゲイツが引退したのは「1.0の世代では2.0な世代の俊敏な動きに追いつけないことを悟ったから」と何度も述べられている。

テクノロジーからの解放

はてブでも「ブログの書き方」などの題材が定期的に注目を集めるのは、Web2.0の裾野に立つユーザが増えつづけていることと、決して無関係ではないように思う。

今のところは、まだまだWeb2.0とは何か? という解説や議論に終始しているのであるが、そろそろその時期は過ぎ、Web2.0が何かというよりも、Web2.0的なビジネスモデルやテクノロジーの活用方法を考える(蒸気機関の仕組みを考えるのではなく、鉄道や自動車への応用を考えるのと同じこと)時期がきている。
180頁「車も家電も、ヒトの行動も2.0化し始めた」

煩わしい覚えごとから解き放たれて、本来の目的(ブログなら、納得いく文章を書くこと)に専念できるようになる一方で、基盤をなすテクノロジーに向けられる視線は稀薄なものになっていく。筆者はweb2.0はテクノロジーがブラックボックス化していく過程でもあると書いている。

検索は不動の地位を占めるようになった

そういえば、検索エンジンにURLを直接打ち込む場面がめっきり減った。覚えているキーワードをGoogleツールバーの窓に放り込めばほぼ間違いなく目的のサイトにアクセスできるのでブラウザのお気に入りに入れなくても「まあいいや」と思う場面が増えた。
検索エンジンがウェブのスタートページになっているのは間違いないようだ。覚えやすく格好いいドメイン名でブランドを競うよりも、GoogleやYahooの検索結果でトップに表示されるのが価値があるとみなされるようになった。URLを打ち込むのは、IPアドレスを打ち込むのと同じように時代遅れのユーザインターフェイスになりつつあると筆者は説く。

面白いのが、ブラウザーに設置された検索窓を使う場合でもっとも頻繁に記入されるキーワードは、なんと「Yahoo!」である。(中略)これはもちろん、トラフィックの基点が検索サービスというよりも検索エンジンそのものにシフトしている事実を示しているわけだが、同時に、URLでさえも、ユーザにとってあまり重要でなくなってきている、ということを意味する。
183頁「車も家電も、ヒトの行動も2.0化し始めた」

だから、最近はわざわざ検索エンジン経由で目的のサイトに誘導する広告が流行っているらしい。こういう手法は、最近ではLPO=Landing Page Optimization(ランディング ページ最適化)と呼ぶようだ。

最近では「○○、と検索してみよう」というメッセージが多くなっていることに気付いたヒトは少なくないはずだ。
183頁「車も家電も、ヒトの行動も2.0化し始めた」

人格をウェブに投影するということ

終盤はGoogleの脅威を説く。このへんは佐々木俊尚の『グーグル―Google 既存のビジネスを破壊する 文春新書 (501)』に一歩譲る。
パブリックではてブをしたり、ブログを書き綴ることはウェブの向こうに自分の人格を投影していく作業であると僕は思っている。時にはそれが思わぬつながりをもたらしてくれることもあるし、時には不愉快な思いをする引き金になることもある。
文中の「Googleは帝国になった」というフレーズに目を通していると、住基ネットが稼動するときに国民総背番号制が恐怖の文脈でもって語られたのをぼんやりと思い出す。
稼動から4年経った今、当時語られた懸念は、より柔和に、より先鋭に深まっていることを、時には心に留めおくことも必要なのかもしれない。